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雨が降っている…。

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   雨の日
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封神計画が終了し、皆の前から姿を消してから人間界で初めて雨が降った。
あの激しい戦いの爪跡をも包み込むように雨は優しく緩やかに降り続ける。



「何を、やっておるのだ…。わしは…」


ぼそりと一言呟く。
周りには誰も居ない荒野で呟いたそれは、誰の耳に届くことも無く、自分にもかすかに聞こえただけで雨の音に掻き消された。



ずっとここで立ち尽くしている。
晴れて自由の身になったというのに、何処に行きたいわけでもなくて、ただただぼんやりと歩いていたら雨が降ってきた。
そしてそれから何をするわけでもなく、ずっと雨に濡らされている。

初めはぽつりぽつりと降っていた雨も、今は段々と激しくなり躰を容赦無く濡らしてゆく。
遥か先の方に見える山々は、霧がかったように擦れて見えて、この世には自分一人しか居ないような訳の分からない孤独感さえもを感じた。

躰も段々と冷えてきている。
もう何時間ここに立ち尽くしているのか…。



「だから…、何をやっておるというのだ…」


もう一度だけ呟き俯く。
何故自分は雨に打たれたままここに居るのか解らない。



何かを待っている?


ふと変な考えが浮かぶ。
こんな雨の中、誰も迎えに来てくれるわけが無いのに。



周りも段々と霧がかってきている。
自分がどの方向から歩いて来たかさえ忘れてしまった。
瞳を閉じて、見えはしない天を仰ぎ、顔と躰を雨に打たれて…。
それでも、何かを待っている。


一体誰が来てくれると言うのか。
それさえもが分からないのに。





『また雨に打たれて…! こんなに躰が冷えてしまってるのに…。
 ああもう。本当、迎えに来て良かった…』



ふと、ある言葉を思い出した。
それは過去に自分に向けられて言われた言葉。




   ***



自分は昔から雨が好きだった。
その中に居ればきっと誰かが迎えに来てくれるから。



幼い頃、父と母を待って雨の中に居た。
(父と母は死んでしまった)

仙界に上がったばかりの頃、親友を待って雨の中に居た。
(親友も死んでしまった)


封神計画が始まり、人間界に降りてからもそれは変わらず。


誰を、待っていた?


そんな事、もう知ってる。
待っているのはあの男。
初めて自分を愛してくれた、自分に愛しいと想う心を教えてくれたあの男。




『ほら、これを被って!
 ……寒くはないですか? 師叔…』


そう言って己の事など構わず、自分に肩布を掛けて抱きしめてくれた。
冷えた躰を暖めようと、強く強く抱きしめてくれた。



瞳の奥がじんわりと熱い…。
頬を暖かいものが伝うけれど、それは雨に紛れてゆく。


ふと雨足が弱まり、慌てて目元を擦る。
雨に紛れているから、誰が見たって泣いていたとは分からないのに。




   ***



ジョカと戦うために王天君と融合したこの伏羲という躰を持ってして、あの男に愛してもらえるわけが無い。


迎えは来ない。

会いにも行けない。


でも、この雨の中で自分は無意識にあのぬくもりを待っていた。
もう一度だけ抱きしめて欲しかった…。


こんな所で雨に打たれて躰を冷やしていても、暖めてくれるものはもう何も無いのに。

なのに、自分はまだ先へは進めなくて…。




   ***



西の空を見上げると、この雨を降らしている分厚い雨雲は途切れ、青空が覗いている。
もうすぐこの雨も止むのだろう。

そうしたらあの男の事も忘れられる。
あの男の代わりに太陽がこの冷え切った躰を暖めてくれる。


本当はあの腕の中に行きたいけれど。
それは叶わぬ夢。




   ***



ふと、周りが明るくなる。
どうやら漸く雨が止んだ様だ。

太陽の光はまだ暖かくはなくて、躰が一瞬震えた。



空を見上げれば、そこにはあの男と同じ蒼。
その内この躰も太陽が暖めてくれる。


今までの雨が嘘だったかのような青い蒼い空。


(あやつに抱かれているようだ…)


冷たくなった躰を包み込むように、緩やかな風が流れてゆく。






今はもう少しだけ悲しみを背負って…。



あの男の元に帰りたいけれど。
あの腕に抱かれたいけれど。


「…楊ゼン……」

今は。





この空の蒼に抱かれて。








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本日(01.10.10)に降って下さいました大雨さんを見てのお話。<凜さん、実は結構雨嫌い。
ぼ〜っと、授業も真面目に受けずにこれを書く私…。

珍しく誰に捧げるでもない突発話。何だか暗い話で恐縮です;



2001.10.10.