desire 2
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これは小さな事件。 ある言葉を貰うための、ほんの些細なゲーム。 ------------------------------ desire −中編− ------------------------------ 人間界に戻ると、太公望は周公旦に説教されたのは言うまでも無く、楊ゼンにまで捕まった。 楊ゼンは太公望を怒ることなく何処に行っていたかだけを聞いて、また仕事に戻って行った。 (何も言わぬのう…) もう太公望の躰は女の躰に変わっている。 それに、楊ゼンが気付かない筈が無い、が。 (まさか、本当に気付いておらぬのか?!) もしも気付いていないのなら女になった意味が無い。 不安が頭をよぎっていった。 早速周公旦に仕事を渡され、それを大人しくやっている太公望だが、その頭の中は楊ゼンにどうやって気付かせるかと言うことと、雲中子に去り際に言われたことがぐるぐる回っていた。 (いっそのこと誘ってみるか…) と、考えるが、 『ナニすると戻れなくなるから』 と、言う雲中子の言葉が頭をよぎる。 気付いて欲しくても、事に及ぶことは出来ない。 もしも、女のまま戻れなくなったりでもしたら、これからの戦いにおいて足手まといになってしまう。 そんなことは分かっているのだが…。 気付いて、少しぐらいは『可愛い』とか言って欲しいと思う。 男の自分がそんなことを、とも思うのだが、自分が女官達に嫉妬をしていることぐらいは分かっていた。 楊ゼンが女官達に囲まれて他愛無い話をしているだけで、居ても立ってもいられなくなるのだ。 楊ゼンを疑っているわけではない、と思う。 だが、心の何処かで疑っている。 自分は男、だから…。 それだけは変えられない事実なのだ。 楊ゼンからは何度も性別なんて気にしなくて良いとか言われたが、その度に自分は子供みたいに黙り込んでしまっていた。 女になって、綺麗な着物を着て、町に出て、腕を組んで歩いてみたい…。 ほんの少しの間で良いから、楊ゼンを本当に独り占めしたかった。 だから、女になったのだ。 *** 太陽は沈み、部屋に光が灯された。 太公望が悩みに悩んで、楊ゼンに勝負を挑もうと思っていた時間だ。 しかし、現実と周公旦は非情なものである。 (何時になったら仕事から解放されるのだ…!!) 帰って来てからは黙々と仕事を真面目にしていた。 早く仕事を終わらせて楊ゼンの元に行こう、と。 だがしかし…。 すでに執務室には太公望一人である。 失踪した罰、とか何とかで解放してもらえないのだ。 折角恥を承知で雲中子にまで頼んで女になったのに、楊ゼンに気付いてもらえず、仕事をして1日が終わったとしたら自分は馬鹿ではないか。 だが…、 (今夜はもう無理なのかのう…) 太公望が諦めかけた頃、周公旦が不意に声をかけた。 「太公望。今日はもう終わっても良いですよ」 神は太公望を見放さなかったのだ。 「本当かっ?!」 太公望はそう言うのとほぼ同時に執務室を飛び出していった。 *** 執務室から楊ゼンの部屋に直行で行こうと思っていた太公望は、あることを思いつき、蝉玉の部屋へ寄って行くことにした。 「蝉玉、ちょっと良いか?」 太公望は蝉玉の部屋につくと静かにノックを数回し、そぉっと戸を開けた。 「あら、太公望。どうしたの? こんな夜遅くに」 蝉玉は少し驚いた様子だったが、快く太公望を部屋の中に招き入れた。 「ちょっと頼み事があってのう。その、…服を貸してくれぬか?」 だんだん語尾が小さくなっていきながら太公望は言った。 「服ぅ?! あ、あんた、そんな趣味があったの!?」 「無いっ!!!」 後ずさりしながら叫ぶ蝉玉に、太公望は間髪入れずに否定した。 そして、今までのことを全て話した。 すると、その話を聞いた蝉玉はさも楽しそうに満面の笑顔を見せながら、長持の中から薄い桃色の綺麗な着物を太公望に渡した。 「頑張ってらっしゃい♪」 太公望にその着物を着せると、蝉玉は背を押しつつ太公望を部屋から送り出した。 (何をだ!) と思いつつ、太公望は暗い廊下を歩いていった。 行き先は言わずもがな、楊ゼンの部屋である。 next ------------------------------------------------------------------- 多分誰も待ってはいないとは思うんですけど、desireの続きです。 簡単に言うと、この中編、只の繋ぎだったりします; 早くヤン氏のトコに行けやと描いてる最中四苦八苦してみたり。(苦) でもでも、意外と女装とかって面白かったですv 私の中では蝉玉と望ちゃんはかなり仲良しさん。“乙女の味方、蝉ちゃん!”ってね。(笑) ネタバレも何も無いのでもうちょっと喋っても良いんですが、どうしようもないブツなので、この辺でコメント終了しておきます; ではでは、後編で。 |