旅行の諸注意
 修学旅行を明後日に控えた土曜日の夜、瞳子は可南子宅で可南子と一緒に過ごしていた。
 だが、可南子は手に険しい表情をしたまま修学旅行のしおりを睨み続けいている。
 その睨まれているページはクラスの班割りのページだ。
「はあ…これはどうすべきかしら…。」
 可南子はそのページを見ながらそういった類の言葉をもう何度も繰り返している。
 さっきからそうしてばかりの可南子が瞳子は面白くなかった。
「…可南子さん、今更メンバーはもう変えられませんわ。」
 見かねた瞳子が後ろから腕を首に絡めてきて可南子を溜息交じりでなだめようとする。
 しかし、それでもその険しい表情は収まることは無かった。
「なんで瞳子さんと一緒のグループじゃないんですか…。」
「…仕方ありませんわ。クジで決まってしまったのですから…。」
「……他のクラスは自由なのに…。」
 修学旅行の班割りは、例年なら自由に決められるはずだった。
 だがどういうわけか、可南子のクラスだけはくじ引きになってしまったのだ。
 実行委員長=乃梨子の言い分は
『普段あまり話さなかった人と交流を深める良い機会だからくじ引きで決めましょう。』
と言うものだった。
 それだけならまだ納得できる部分はあった。が…。
「よりによって瞳子さんが乃梨子さんと敦子さん、それに美幸さんと同じなんて…。」
「…何か問題があるのですか?」
 何も知らない瞳子が可南子の顔を覗き込んで尋ねてきた。
 その顔を見て可南子はまた頭を抱えた。
 問題は大いにある。あってあって大有りである。

 この三人、いつからか瞳子のことを狙ってきており、そして恋人である可南子からその座を奪い取ろうとしているのだ。
 最初のうちは思い過ごしかと思っていたが、瞳子と二人で話しているときに見た三人の敵意剥き出しの目を見てそれは確信に決まった。
 乃梨子なんて、前まで可南子たちのことを応援していたくせに…。

 話を元に戻そう。
 思えば乃梨子が実行委員長に立候補したことから怪しんでおくべきだったかもしれない。
 確率論から見て、瞳子を狙っているこの三人が瞳子と同じ班になる可能性はかなり低いはずだ。
 それなのにこんな結果になったのは乃梨子と副実行委員長の敦子(ついでに美幸は“自称”副々実行委員長)が裏で細工をしているから
だろう…そう思った。
 くじ引きなら不正されても気付きにくいし、実行委員という立場なら都合の良いように細工するのもお茶の子さいさいだ。
 そう睨み、可南子が乃梨子たちに詰め寄ったが
『証拠はあるんですか?』
 とか
『瞳子さんと一緒になれなかったからって当たらないで下さい。』
 とか
『決まったものを今更可南子一人のワガママで変えるわけにはいかないんじゃない?』
 と三人がかりで言い負かされてしまった。

 しかも瞳子はこの三人の気持ちには気付いていない。
 普段「祐巳さまは鈍感で困りますわ」と言っているのに自分のことには負けず劣らずの鈍感だった。
 …そのおかげで今のところ助かっているのだけども。
 だが、この旅行では邪魔者である可南子の存在はほぼシャットアウト状態。
 この間に何らかのアクションを起こすのは間違いないだろう。


(瞳子は私のものなのに…)
 何か自分のものである証明を付けておきたい。が、良い案が浮かばない。
 一度キスマークを首筋に付けた事があったが、その時は本気で怒らせてしまい結局その日は学校を休まれてしまった。
 それ以前に、それではすぐに消えてしまう…。

「もういい加減諦めてしおりなんかより瞳子のことを見てください。明後日から離れ離れになってしまうのですから。」
「あっ、ちょっと。」
 近くにいるのに自分の方を見てくれないことに業を煮やした瞳子が後ろからしおりを奪い取ってそのままポイッと放ってしまった。
 放られたしおりはそのまま床にバサリと落ち、その際に別のページが開かれた。
「もう、だからって投げないでくださいよ…。」
 苦笑いを浮かべながら瞳子を自分の胸に引き寄せて、観念してしおりを片付けようと片手を伸ばす。
 と、その時にあるページが目に入った。
   その瞬間、ピーンと一つの案が頭に浮かんだ。
「…ああそうか、単純なことじゃない…。」
 そのページは最初の諸注意のページだった。
 そこを見ながら怪しく笑う可南子。はっきり言って不気味である。
「か、可南子さん?」
 さっきまでとは違う様子に少し怯えながら可南子の顔を見上げる。
 やがて可南子は怯える瞳子に触れる程度のキスをしてこう言った。 「いい案が浮かびました。」
 と。




 旅行当日の成田空港――
 クラスのグループごとに分けられて既に整列は完了しており、瞳子の周りには当然乃梨子ら3人がスタンバっている。
 だが、その表情はどこか不満げだ。
「…瞳子、その腕のは何?」
 そう忌々しげに口を開いたのは乃梨子だった。他の二名も同じような様子でその腕に付いたものを見ている。
「可南子さんが『私のものと誰にでも分かるように』、と言って…。」
 そう苦笑いを浮かべてありがた迷惑そうに瞳子が言う。
(…あのハリガネめ)
 三人ともそう思った。

 瞳子の腕裾には、「二年椿組 細川可南子」と書かれた布が安全ピンでしっかりと止められていた。


 ――修学旅行の諸注意――

 他人の物と間違えたりしないよう、自分の物にはしっかりと記名をしておくこと――



あとがき

初小ネタ、初可南子×瞳子、そしてモテモテ瞳子(笑)
というか両方ともツンデレじゃなくてただのデレデレになってるし(汗)

二年になってもこの面子は同じクラスなんでしょうかね?
2style.net