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夏休みも後半に差し掛かった薔薇の館。 流れてくる風はほのかに秋の気配を含み始めたものの太陽光線は容赦なく照らし付けて室内の温度計は30度オーバー。 これでは会議室、というよりサウナ、と言ったほうが良いかもしれない。 それでも山百合会の面々は後期のメーンエベントの体育祭と学園祭の準備の為に出向かなければならない。 そのサウナ…もとい会議室には今、祐巳と由乃を除く全員がそろっていた。 「遅いですね、祐巳さまと由乃さま。」 自分の会議の準備をし終えて席に座った乃梨子が腕時計を見ながら言った。 会議の時間まで後10分も無い。 「ちゃんと来るって言ってたから来ないってことは無いだろうけど…。ちゃんと祐巳ちゃんの家から来るって…あっ…。」 しまった、といった様子で令が口を押さえ、恐る恐るとある方向を見る。 その方向には祐巳の姉、祥子が鎮座していた。 「…あの、いや、その」 言い訳にもならない意味を含まない単語が令の口から出てくる。 祐巳に関しては人一倍独占欲が強い祥子が『由乃と祐巳が一緒に来る』と聞けば、どうなるか分からない。 ヒステリーを起こして険悪なムードの中会議をするハメになるのは避けたいところだ。 だが、その反応は意外なものだった。 「そう、じゃあ祐巳も一緒に来るのね。なら良かったわ。」 普通の反応に周りは意外、といった表情で祥子を見つめる。 普段うっかりあんなことを言えばいつもなら額に青筋浮かべ一気に不機嫌モードに切り替わるというのに。 そんな祥子を皆が不思議そうに見ていると、祥子が怪訝そうに皆を見回した。 「どうかしたかしら?私の顔に何か付いてる?」 「いや、別に何も無いけど…。」 随分と大人しいから、と言いそうになったが喉で押し止めた。 自ら地雷を思い切り踏みに行くようなものだ。 と、そんな微妙な空気の中、やっと問題の二人が姿を表した。 「ごきげんよう!」 「ごきげんようお姉さま!遅れてすいません!」 はあはあ、と息を切らしながら祐巳と由乃が会議室に半ば飛び込むように入ってきた。 ここまで走って来たのか、その額には大粒の汗がいくつも浮かんでいる。 「ごきげんよう、祐巳。遅かったから心配したわよ。」 「う…ごめんなさい…。」 祥子にそう言われシュン、と祐巳は少し落ち込んでしまった。 彼女のトレードマークであるツインテールも心なしかシュン、とうな垂れているように見える。 「それで、何故遅くなったのかしら。いつもならもっと早いでしょう?」 「それは…その…バスで降りる場所が近付いたら起こしてって由乃さんに頼んだんですけど…。 気付いたら一つ乗り過ごしちゃってたんです…。」 祐巳はプー、と頬を膨らませて恨めしそうな視線を由乃に送りつける。 その視線に気付いて由乃は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて祐巳に近付いてきた。 「だって、あんまり可愛い寝顔だったから、ついついずっと見たくなっちゃったんだもん。」 「ついつい、じゃないよ…。凄く焦ったんだから…。」 「ごめんごめん。帰りにアイス奢ってあげるから、それで許してくれる?」 「本当!?約束だよ、由乃さん!」 「分かってるよ、祐巳さん♪」 「由乃さん♪」 イチャイチャラブラブ、二人とも完全にバカップルモードに突入し二人の空気の温度は急上昇。 反対に会議室の空気の温度は急低下。皆完全に引いている。 だが、今問題なのはそれよりも。 (ああ〜由乃ぉ、あんまり祥子の前でイチャイチャしないで〜…。) さっきはなんとも無かったものの、こう目の前でイチャイチャされてはさすがにキてしまうだろうと令はオロオロとし始めた。 そうなっては先に述べたようにヒステリー、いや、こうもあからさまにやられたらヒステリーどころじゃないかもしれない。 かと言って由乃を止めれば、いいところを邪魔されて『令ちゃんのバカ』と何かしらの被害(主に肉体的)を受けてしまうだろう。 (ああマリア様、何故自分はこうも幾つもの試練を受けなくてはならないのでしょうか。) どっちに進んでも被害を被る、不幸な自分を呪った。 「祐巳、仲が良いのはいいけどそろそろ会議の時間だから準備なさい。由乃ちゃんも。」 だが、またしてもヒステリーは発症せず普段時と変わらない口調で祐巳と由乃に席に着くよう促した。 祐巳と由乃以外はそれにまたも不思議そうな視線を祥子に向けた。 「あ、はい。分かりました。忘れないでね、由乃さん。」 「大丈夫、絶対忘れないから。」 最後にそれだけ交わすと二人とも自分の席に着いた。 「さて、会議を始めるわよ。…って、令。さっきから何か用?それに志摩子と乃梨子ちゃんも…。」 「い、いや何も…。じ、じゃあ会議を始めようか。」 不機嫌にならない祥子を疑問に感じながら(なったらなったで困るのだが)、なんとも形容しがたい空気の中会議が始まった。 ……… …… … 会議は滞りなく進み、今はお茶会の時間。 祐巳はある意味お約束の展開というか、由乃とのおしゃべりに夢中になっている。 そんな様子を祥子はまるで『しょうがないわねぇ』とでも言いたげに苦笑いを浮かべて見つめていた。 「…あの、祥子、ちょっと良いかな?」 そう祥子に言い寄ってきたのは令。その周りには志摩子と乃梨子も一緒だ。 「何かしら?」 「いや、あのさ…」 「もう、今日はどうしたの?ハッキリしないわね。」 「目の前で祐巳さんと由乃さんがイチャイチャしててなんとも無いんですか?」 「なっ!」 煮え切らない令に代わって直球ストライクに問いかけたのは志摩子。 あまりの直球ぶりに乃梨子も令も固まってしまった。 だが、そんな二人の心配をよそにして祥子はさも当然のように答えた。 「あら、どうして?」 「どうしてって、祥子さまは祐巳さんのことが大好きじゃないですか?」 そこまで聞いてようやく祥子は合点がいったようで「ああそのこと」と口を開いたのだった。 「…私も気が付いたのよ。私がどうこうしたって仕方が無いって。」 「…祥子。」 「今まで腹を立てたり、悔しい思いをしたけれど、そんなことを感じても無駄だってね。」 堂々と目の前でイチャつく祐巳と由乃を眺めつつ、穏やかな表情で告白していく。 それだけ聞いてようやく令も今まで由乃と祐巳の関係での緊張が取れていった。 やっと祥子は由乃と祐巳の関係を受け入れ、認めてくれたんだ。 そう思った。 「祥子、やっと認めてくれたんだね。」 「? 何を?」 「何をって、由乃が祐巳ちゃんと付き合うことにだよ。」 安心して令はそう尋ねたが祥子は何を言ってるのか分からない、というような表情をして首を傾げた。 「何を言ってるの? 私は由乃ちゃんのことを認めたわけじゃないわよ。」 ……あれ? 「ね、ねえ祥子。言ってること矛盾してない?」 額に大きな汗を一つ浮かべつつもう一度令がたずねる。 「矛盾なんてしてないわ、言ってる通りよ。」 「いや、だってさっき『どうこうしたって仕方が無い』って…。」 「ええ、その通りよ。」 なんだなんだ。令たち三人も訳が分からずに首を捻ったが何を言っているのか相変わらず分からない。 頭に多くの疑問符を浮かべる三人を見かねて祥子はそのことを説明し始めた。 「分からないの? あれは祐巳の作戦なのよ。」 「サクセン?」 「そう、私にヤキモチを起こして構ってもらおう、というね。」 「……。」 「もう…いつの間にそんな技を身に付けたのかしら。困ったものね。」 ようするにあれはただ単に気を引こうとしているためだけの行動、と祥子は考えているらしい。 今まで自分はその作戦にまんまと踊らされていたのだ、と。 「でも、私が何の反応を示さなくなればいずれ寂しくなって私の元に帰ってくるわ。もうその手には乗らないわよ。」 どうやら、祥子は反応を示さなければ自分の元に返ってくる、と信じているらしい。 だが、当然そんな訳はなく二人の仲を知っている三人はどうすべきか、と顔を見合わせる。 (…どうする? 本当のこと言おうか?) (私は構いませんが…由乃さんが危ないのでは?) (それに、ヒステリーを起こされたら面倒ですし…。) (…でもいづれ気付くんじゃ…。) (…まあその時はその時で考えればいいんじゃないですか。) (学園祭が終了するまであのままでいてもらった方が仕事が滞ることもありませんし。) (まあ…そうだけど…。) そんな秘密会議を続けている間も祥子はニコニコと祐巳と由乃のイチャイチャを眺めている。 「祐巳さん、だーい好き♪」 「私もだよ、由乃さん♪」 三人が二人を見たとき、人前だというのを気にせずに由乃が祐巳にベター、と抱きついていた。 完全に二人の世界に入りきっている。 「祐巳。」 その二人の世界に入りきっている祐巳に祥子が表情を変えずに声を掛けた。 それから少ししてアッチの世界から祐巳が帰還してきた。 「…はい、何でしょうお姉さま?」 「いつでも正直になりなさい。待ってるわよ。」 「……? はあ…。」 祥子が何を言っているのか分からないため祐巳は曖昧な返事をするしかなく、キョトンとした表情を浮かべている。 「もう、祥子さまじゃなくて私を見てよー♪」 「ああ、ごめんね由乃さん♪」 そうやってさらにベターっと抱きつく由乃。それに応えて頭を撫でながら抱きしめる祐巳。 このクソ暑い中のこの光景、はっきり言って暑苦しいことこの上ない。 その様子を見て三人は深い溜息を思い切りついたのだった。 (…あの様子じゃ絶対祐巳ちゃん気づいてないよ…。) こうして令、志摩子、乃梨子の間に新たな悩みの種が出来たとか…。 あとがき 私流壊れ祥子さま(ごめんなさい) 本来はもっと長くて短編SSに入る予定だったんだけど、途中からどうしても書けなくなり小ネタSSに。 でもまあこれぐらいの長さでちょうど良かったかも。 あんまり長くイチャつかれると鬱陶しいか(笑) 中盤まではもっと前に書いてあったので後半か文体が違うかも。 これからもひたすらバカップルでいてください(マテ) SSモデル:見つめている(ポルノグラフィティ) |