Merry Christmas to me
「聖さま、あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
 ここは祐巳ちゃんの家…私と祐巳ちゃんだけのクリスマスパーティ会場だ。
 目の前には私と祐巳ちゃんが一生懸命作ってくれたご馳走、一緒に買いに行ったクリスマスケーキ。
 そのご馳走を一口ずつ私に祐巳ちゃんが口に運んできてくれ、それに答えて私も口を開ける。
「美味しいですか、聖さま?」
「うん、すっごく美味しいよ祐巳ちゃん♪」
 少し不安そうな顔をする祐巳ちゃんに嘘偽りなく満面の笑みで応える。
 それを見て祐巳ちゃんの顔から不安が消え去り、いつもの可愛らしい笑顔に戻った。
「祐巳ちゃんが作ってくれる料理に、まずい物なんてあるわけ無いじゃない。」
「聖さま…嬉しいです。」
 嬉しそうな顔でさらにピッタリと祐巳ちゃんが寄り添ってきた。それに応えて祐巳ちゃんを抱き寄せる。
 窓の外を見れば雪と、さらに隣の家のクリスマスのライトアップが合わさって雰囲気は満点、言うことなし。
 まるで恋人達の為にあらかじめ予定されていたような状況だ。
「祐巳ちゃん、メリークリスマス。」
「聖さま、お誕生日おめでとうございます…。」
 顔を紅く染めて私と向き合う。
 そして、お互いの目が閉じられて二人の唇の距離が0センチになりそのまま一夜のアバンチュールへ…。


 そんなことを想像(という名の妄想)しつつ私は準備していた。
 思えば今年は祐巳ちゃんと恋人同士になって初めてのクリスマスイヴ。
 そう思うと楽しみで仕方が無かった。
「きっと祐巳ちゃんも楽しみにしてるだろうな〜。もうすぐ行くからね、祐巳ちゃん♪」
 傍から見れば変態そのものに見えるだろうが、この気持ちは収まらない。
 それに、今家には誰もいないからこの姿を見られる心配も無い。
 そんな浮かれ気分で準備していたら

 ピンポーン…

 と呼び鈴が鳴った。
「あれ、誰か来たかな?」
 まぁ宅急便か何かだろう。そう思って印鑑をあらかじめ持っていって玄関を開けた。
 そこには…。
「あれ、加東さん?」
 そこには、友人の加東さんが立っていた。
 確か今日は祐巳ちゃんと約束があるって言ってたはずなんだけどな…。
「こんにちは佐藤さん。…そんな余所行きの格好でしてどこ行くのかな〜…?」
「ふっふ〜ん、祐巳ちゃんとクリスマスパーティ!」
 ガスッ
「痛ったぁ!? 何すんの加東さ…ん…。」
 満面の笑みでそう答えた私の頭に加東さんのゲンコツが直撃した。
 その顔には祥子ばりの見事な青筋が浮かび上がって…。
「へぇ〜、レポートほったらかしでパーティに行けるほど偉くなったんだ…。」
 げっ。レポート…その事を探りに来たのか…。
「い、いや、レポートは明日やろうと思って…。」
 殴られた頭を擦りつつ、全身から赤いオーラを発している加東さんに弁解するがあまり効いていない。
 …まさか顔に出てるとか?
「…明日で全部終われるほど進めてあるの? 見せてくれない?」
 …どうやらそのようだ。
「い、いや、大丈夫だから。なんで見せないといけないのさ?」
「大丈夫なら見せれるでしょ? 見せてよ。」
 ヤバイ。大丈夫とか言ったものの実際は進んだどころか一文字も書いて無い。
 そんなことがばれたら何されるか…何とか誤魔化さないと…。
「いや、そんな私のなんか見たって面白くないし、大体今日はめでたいクリスマ」
「だまらっしゃい!!」
「はいぃぃ!」
 何とか誤魔化そうとしたものの、赤いオーラをフル放出させた加東さんの圧力にあっけなく敗退してしまった。
 私は仕方がなく、部屋から持ってきた白紙のレポート用紙を恐る恐る手渡す。
 それを見た加東さんのゲンコツが私の頭を再度襲ったのは言うまでもない…。


「…佐藤さん、まさか私も一緒に何度も先生に頭下げて締め切りを明後日まで延ばしてもらったのを忘れたのかしら…?」
「い、いえ…しっかり覚えてます…。」
 あの後私は正座させられて、ただいまお説教中である。
 恐る恐る顔を上げると目に映るのは般若のような形相をした加東さん…。
 心なしかいつもよりも部屋が寒い…。
「それでその結果がこれ…というわけ?」
「いや、結果というわけでは…。」
 パンパンと白紙のレポート用紙を嫌味ったらしく叩いた。
 チラリと腕時計を見ると、もう約束の時間まで一時間を切っていた。しかし加東さんの説教は終わりそうに無い…。
 この分だと遅刻かなぁ…。
「…しょうがない。こうなったら、今日明日とみっちり佐藤さんに付き添ってレポートを終わらせてやる!」
「はぁ!?」
 今なんて言った? 今日明日みっちりって、私には既に祐巳ちゃんとの約束があるっての知らないの!?
「ちょっと加東さん、私には祐巳ちゃんとの約束が!」
「キャンセルしなさい。」
「そんなあっさり!?」
 私のずっと楽しみにしていたプランをあっさりと一言で切り捨てた。
「そんな事言われてもこの事はずっと前から約束してたのに! 何の権限があってそんなことするのぉ!?」
 冗談じゃないと私は泣き顔(演技)でガシッと加東さんの両腕を掴み揺さぶって必死に懇願した。
 しかしそれも空しく次の瞬間には振り解かれ、逆に今度は私になんとコブラツイストを掛けてきた(!)
 い、いつの間にこんな技を…。
「あんた立場分かってんの!? 一緒に頭下げた友人の権限よ! 何か文句ある!?」
 加東さんは横目で思いっきり睨みながらさらに力を入れてきている…。
 やばい…この人本気で締めてる…てか身体がギシギシ悲鳴上げてんですけど…。
「は…はい…分かりました…だから…はな…離し…て…。」
 生命の危機を感じた私はあえなくギブアップし、この日は加東さんとクリスマスを過ごすことになってしまった…。

 早めの夕食はご馳走の代わりにカップラーメン、シャンパンの代わりにブラックコーヒー。
 目の前にはクリスマスツリーの代わりに参考書のマウンテン、そして隣には祐巳ちゃんの代わりに加東さん…。
 おまけに窓から見えるのは雪景色ではなく窓に打ち付けてくる雨模様。
 クリスマスでハッピーどころか日常よりも憂鬱な気分だ。
「佐藤さん、手が止まってるわよ。」
 加東さんの言うことを気に留めずにそのまま頭を抱えた。
 本来の私のクリスマスプランは? 私と祐巳ちゃんのラブラブクリスマスパーティーはどこへ行った?
 何でこんな日に参考書を捲らなければならない?
「…何でこんなことに…。」
「それは佐藤さんが昨日提出のレポートをすっぽかしたからでしょうが!」
 あ、こんな小さな呟きなのに聞こえたんだ。地獄耳だねえ…。
「大体、今回のレポートが遅れたのもレポートをほったらかして祐巳ちゃんと一緒にいたからでしょう?」
「…返す言葉も無い…。」
「どうするの? 祐巳ちゃんと遊んでばっかりいて留年しちゃったりしたら。」
「留年? いや、大丈夫だってそんなの。」
「そのレポートもそう思って今こうなってるんじゃないの?」
「ぐ…。」
 …うう…今日はやけに痛いところを突いてくるなあ加東さん…。
「きっと祐巳ちゃんも責任感じちゃうと思うわよ。想像してみなさい、責任感じて分かれようって祐巳ちゃんに言われた時のことを。」
「えっ?」
 まさか、とか一瞬思ったけど祐巳ちゃんなら本当に言いかねない…。人一倍責任感が強い子なんだから…。
 ……。
 
『聖さま…私のせいで留年しちゃったって加東さんから聞いたんですけど本当ですか…?』
『えっ、いや、そんなこと無いよ。留年しちゃったのは本当だけど…祐巳ちゃんは悪くないから、ね?』
『…ううん、きっと私の頭が悪いから聖さまの足を引っ張ってしまったんです…。』
『ないないない! そんなの関係ないから! 祐巳ちゃん本当に悪くないから!』
『聖さまは優しいからそう言ってくれるんです…。…やっぱり私は相応しくなかった…分かれましょう聖さま…。』
『そんな! 考え過ぎだって祐巳ちゃん! だから分かれるなんて言わないで!』
『聖さまさようなら…もっと素敵な人を見つけて幸せになってくださいね…。』
『祐巳ちゃん! ちょ、ちょっと待ウグェ!?』
 背を向けて離れようとしている祐巳ちゃんを追いかけようと走った瞬間、首根っこを後ろから思いっきり引っ張られた。
 その方向を向くと、怪しいくらいの満面の笑みを浮かべた加東さんが山のような参考書を抱えて首根っこを掴んでいた。
『さぁ〜佐藤さん? 来年は留年しないようた〜っぷり勉強しましょうね?』
『は、離せぇ加東さん! 祐巳ちゃんが、祐巳ちゃんが〜!』
 必死に逃れようとバタバタ抵抗していたら、その様子に気付いたのか祐巳ちゃんがこっちを向いて止まってくれた。
 ひょっとして助けてくれるかも、と希望の光を一瞬見たが…。
『加東さん、聖さまをお願いしますね。』
『ゆ、祐巳ちゃん何言ってるの!?』
 期待とは正反対の言葉に耳を疑った。
 それを聞いた加東さんの顔はさらに笑みを増してゆく…。
『任せといて祐巳ちゃん、このバカは私がしっかり面倒見るからね。』
『そう言って頂けて安心です。聖さま、お幸せに…。』
『ゆ、祐巳ちゃ〜ん! カムバ〜ック!』
 その言葉も空しく祐巳ちゃんは振り返ってくれず、私はそのまま首根っこを掴まれたままズルズルと加東さんに引きずられて行く…。
『さあ〜て、それじゃあ張り切って勉強しようか!』
『い、いやだ〜! 祐巳ちゃ〜ん!』

 ……。
「……。」
「…どうだった? 顔青いわよ。」
「…凄く、嫌な未来図が浮かびました…。」
「だったら、そうならないようレポートやりなさい。」
「うう…。」
 軽くグロッキーになりながら、こんな事にならないよう加東さんの言うとおりに筆を進めることにした。
 それにしても、自分って結構想像力があるんだな…あそこまで鮮明になるなんて…。


「…はぁ、進まないよ加東さ〜ん…。」
「また? …ここはこうやって書いたらいいんじゃないの?」
「そうなの?」
「全く…少しは考えなさいよ…。」
「…分かっちゃいるんだけど…。」
 進めよう、進めようと思うけどどうにもこうにも調子が乗らない。
 祐巳ちゃんのことを思うと気が気じゃなくて、レポートが手に付かないのだ。
 キャンセルの電話した時は『気にしないで』と言ってたけど、やっぱり寂しそうだったな…。
 私と一緒に食べる予定だった料理を寂しく食べてるんじゃないのとか、寂しくて泣いてるんじゃないかとか、いやな想像ばかり浮かんでしまう。
「…祐巳ちゃん…。」
 会いたい。出来ることなら今すぐ会いに行きたい。
 しかし、隣には見張り役の加東さんがいる。逃げ出すことは出来ないだろうな。
 おまけにレポートを放棄すれば留年確定…見えない鎖にがんじがらめにされているようだ。
「祐巳ちゃん…会いたいよぉ…。」
 会いたいという気持ちが意味も無く口から出て行く。
 別に口に出したからって会いに来てくれるわけでもないのに…。
 それでも言ってしまうのは、今でも会えると願っているからだろうか。
「佐藤さん、ほら、早く進めなさいよ。」
「分かってるよ…。」
 祐巳ちゃんのことで集中できない頭を無理やり働かせて文章を書くが、どうにもこうにも納得の行く文章が書けない。
 書いては消し、書いては消しという作業をずっと繰り返している。
 新品同様だったケシゴムも磨り減って長方形から歪な楕円形に変わってしまった。
 始めて大分経つのに、まだ3ページも進んでいない。最低10ページは必要なのに…。
 その3ページもあまり納得の行く内容じゃなかった。
「はあ…。」
 ペンを投げ出し、疲れた頭で机にもたれ掛かった。
 加東さんがジト目で見るがもうそれすら気にする気力も無い。
 ふと、時計を見れば既に10時を回っていた。あと二時間足らずで今年のクリスマスも終わってしまう…。
 こんな最悪なクリスマスはもうゴメンだ…。
「…ああもう、わかったわよもう。」
「え?」
 深い溜息をつき、髪をかきあげると加東さんはやれやれというふうに口を開いた。
「…もう、祐巳ちゃんのとこに行きなさいよ。」
「ほ、ホントに加東さん!?」
 ほとんど諦めていたその言葉に思わず飛び起きた。
「う、嘘じゃないよね! ね、ね!」
「嘘じゃないわよ。これじゃあはかどりゃしないし、こっちだってウンザリよ。」
 嘘じゃないということが分かって、嬉しさは頂点に達した。
 願いが空に届いたのだろうか、なんにせよ、これで祐巳ちゃんのところへ行けるのだ。
「あ、ありがとう加東さん!」
「その代わり、何が何でも明日中にレポート仕上げさせるから覚悟しといてよ。」
「分かった! それじゃあもう行くから、留守番よろしくね!」
「は、はぁ!? ちょっとなんで私が留守番なんか」
「それじゃあ頼んだよ!」
 加東さんの許可を得た私はすぐさま車のキーをとって外に駆け出した。
 今ならまだ今日中に会える…そう思うと一分一秒が惜しかった。
 加東さんが何か言ってたけど、その事を気にする間も無く車のエンジンを掛けて飛び出していった。
「祐巳ちゃんゴメンね、今すぐ会いに行くから!」
 祐巳ちゃんの家までは近道を使えば10分ぐらい。
 最愛の祐巳ちゃんのことを思い、さらにアクセルを踏み込んだ。
 少しでも早く、祐巳ちゃんに会うために…。



 ……

「…やれやれ、私も甘いな。」
 佐藤さんに断る間もなく留守番を頼まれてしまい、結局私は一人でこの他人の家でクリスマスを過ごす羽目になってしまった。
 世の中ではクリスマスと理由付けてカップルが互いに甘えているというのに…。
 …佐藤さんもそのうちの一人なんだよね…。
「…寂しいなあ…。」
 祐巳ちゃんのことは分かってたけど、やっぱり佐藤さんとクリスマスを過ごしたかった。
 本当は今日のレポートだって、ただの口実だったし。
 どんな形であれ、佐藤さんと一緒にいたかった。
 けど、あんな姿を見せられたら罪悪感で楽しむ所じゃなくなるに決まってる。
 そこまで佐藤さんの心を祐巳ちゃんが占めていたなんて…。
 こんな素直になれない自分が情けない。佐藤さんにもっと素直になれたらいいのに。
 
 佐藤さんの願いは叶ったけど、私の願いが叶う日は来るのだろうか。
 無理な願いだというのは分かってるけど…。

 窓の外を見ると、いつの間にか雨は雪に変わっていた。
 ギリギリのホワイトクリスマス、か。このペースだと明日の朝は真っ白になっているだろう。
 …でもそんなの、一人の私には正直関係が無い。
 雪が降ったって寂しくなってしまうだけだった。
 私はカバンの中から休憩の時にでも佐藤さんと開けようと思っていたシャンパンの取り出した。
「…よっ、…と…。」
 佐藤さんがいる時になら盛大に蓋を飛ばすつもりだったけど一人だと空しいだけだし、人様の家を勝手に汚すわけにもいかない。
 ハンカチで蓋の部分を覆い、噴き出さないように静かに蓋を開ける。
 少しポン、と音がしたものの中身が噴き出すことはなかった。
 それをさっき空にしたカップに注ぐ。安物だけど、それなりの甘い香りが鼻をくすぐった。
「…佐藤さん、メリークリスマス。…メリークリスマス、私…。」
 降り続く雪を見つつ、シャンパンを一人飲みながらそう呟いた。
 きっと佐藤さんは今頃祐巳ちゃんと甘えあっているだろう。
 …そう思うと、ますます寂しい気分になった。


 …サンタさん、もし私にプレゼントをくれるのなら、佐藤さんに素直になれる魔法を掛けて下さい。
 …たとえ振り向いてくれなくてもいいから…。

あとかき:

個人的に加東さんはツンデレだと思います(笑)
ちょっと切ないクリスマス…ギャグなのかシリアスなのか分かりません(汗)
初めはギャグのつもりがいつの間にかこんな形に…。

…私が書く聖さまは何故こうもへタレなんでしょうか(汗)

う〜ん、長い間書く暇が無かったから技術が落ちている…。
頑張ります。

SSモデル曲:Merry Christmas to me(スネオヘアー)
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